歯科症例3 歯冠切除+生活歯髄切断術
歯冠切除+生活歯髄切断術とは簡単に説明すると歯を生かしたまま切断し、切断面を処置するというものです。不正咬合(かみ合わせの不正)で歯が歯肉に刺さっている場合や、交通事故などに伴う時間の経過していない破折などの場合、この生活歯髄切断術が選択されます。
特にダックスやコーギーなどの鼻の幅が短い犬種は不正咬合に伴い(多くは乳歯の遺残によるものですが)、下顎の犬歯が上顎の歯肉に当たり、潰瘍を形成してしまう事があります。抜髄をした(歯内療法をした)歯との大きな違いは、歯が生きているという事です。
症例(ウェルシュ・コーギー、1歳、メス)
食べるときに難しそうにする、最近食欲が落ちているという主訴で来院されました。口腔内を観察すると、重度のクラス2不正咬合(遠心咬合、いわゆるオーバーショット)が認められ、本来上顎の犬歯の前に咬合しなければいけない下顎の犬歯が上顎の犬歯の口蓋側(内側)に咬合し、歯肉にあたり、潰瘍を形成していた。また、左側は乳歯遺残もあるため、さらに重度であった。
歯冠切除+生活歯髄切断術と歯科矯正の説明をした結果、時間がかからず、麻酔回数も少なくてすむ生活歯髄切断術を飼い主さんは希望されたため、歯冠切除+生活歯髄切断術を実施した。
歯冠切除+生活歯髄切断後、潰瘍は消失し、痛みがなくなったため食欲も増加した。処置半年後、デンタルレントゲンでデンティンブリッジ(歯内の象牙質の造成)も確認され、処置後も歯が問題なく生きている事が確認された。
歯冠切除+生活歯髄切断術は歯は短くなってしまいますが、動物の痛みをとるという意味では非常にいい処置です。ただし破折などで露髄して、時間が経過した場合、適応にならない場合が多く、その場合は歯内治療あるいは抜歯が適応となります。