飼い主さんの責任って?
慢性の嘔吐と削痩を主訴に来院されたユーリちゃん。11歳の中型犬です。
腹部超音波で腸閉塞所見と大きなしこりが確認されました。
しこりの位置やサイズ、周囲への浸潤具合や転移の有無を確認するためCT検査を行ったところ、腸管に大きな腫瘍ができていて、そのために腸閉塞を起こしていることがわかりました。明らかな転移は確認できませんでしたが、リンパ節の腫大も認められたため、手術で一時的に症状が改善しても、完治できない可能性も十分考えられました。もちろん癒着などの具合によっては、摘出できない可能性もありました。
そのような内容のお話しを飼い主さんにさせて頂いて、でも根治できないにしても手術で摘出できれば一時的にしろ、症状が改善し、大好きなご飯を食べれる時間が作れると思いますとお話ししました。
飼い主さんはできるだけの事をしてやりたいと、翌日の手術を決断されましたが、その日はおうちに連れて帰られて、ご家族とゆっくり過ごさせたいということでした。
翌日、ユーリちゃんと一緒に来られた飼い主さんが、僕にこう言われました。「先生、この子の置かれている状況がとても悪い事はよくわかっています。私たちは万に一つ、億に一つも助かる見込みはないと覚悟しています。本当は今日も病院に連れてこようかどうか悩みました。でも、このまま何もしてやらなかったら、この子に申し訳ない。私たちは早くこの子の異常に気がついてやれなかったお詫びに今日病院に連れてきました。」
この言葉はものすごく心にしみました。正直、泣きそうでした。
そして手術が始まりました。腫瘍は盲腸の周辺にできていて、たくさんの血管を巻き込んでいました。とてもハードな手術でしたが、丁寧に血管を分離していき、無事摘出することができました。リンパ節への転移が疑われるため、完治することはできないかもしれません。でも、術後順調に回復してくれれば、数ヶ月は大好きな飼い主さんと一緒に、おいしいご飯をたくさん食べることができます。
術後の回復は順調で、翌日から始めた少量の食事もよく食べてくれています。
退院までもう少しです(^.^)