少しでも長くいっしょに
三週間ほど前に重度の貧血で来院したシェルティーのロナちゃん。
原因不明の貧血で、以前行かれていた病院の先生も専門の病院を紹介しようとしてくださったそうなのですが、その時にロナちゃんのヘマトクリット値が12という非常に危険な数字だったため、紹介もできないと言うことで「あきらめてください」と言われたそうです。うちに来院されたときもヘマトクリット値は12で、命の危険性がある状態でした。
ロナちゃんはご家族の中で、本当に家族の一員として生活していて、ご家族のみんなが、ロナちゃんになんとか元気になって欲しいと言われていました。
貧血の状態を確認したところで、腹部レントゲン、腹部エコーの検査を行い、胃?十二指腸にかけての部分に何らかの異常がある可能性が高いということが分かりました。その上で、飼い主さんには輸血を行った上で、内視鏡の検査を行うことをご提案しました。ロナちゃんはDEA1.1(?)の血液型なので、同じDEA1.1(?)のゴールデンのそら君に協力をしてもらうことになりました。そら君の飼い主さんの仕事の都合で、輸血は午後8時から始まり、輸血が終了したのは午後9時半でした。それから麻酔をかけ、内視鏡検査を行うと、ロナちゃんの十二指腸にはたくさんの腫瘤ができており、ほとんど閉塞した状態でした。また、そのしこりが自壊し、出血を起こしていました。貧血はこの出血から来ているようです。しこりの部分を数カ所バイオプシーし、検査を終えました。
検査の結果、悪性腫瘍の腺癌という事がわかり、場所的に切除は困難なため、治療は対症療法が中心に行うことになりました。とにかく食べてもらいたいのでで、飼い主さんとご相談し、おなかの中の状態を確認するのと合わせて、腸のバイパス手術を行い、今後さらに十二指腸が閉塞してきても、食べ物が通過できるようにすることになりました。
十二指腸の部分はやはり切除できない程の状態で、腹腔内には転移も認められましたが、バイパス手術と貧血に対する治療で、貧血はかなり改善し、嘔吐も少なくなりました。
ロナちゃんの腫瘍は悪性で、すでに転移もあります。この子の癌を治してあげることはできません。僕たちにできることは、少しでも長く、ロナちゃんが飼い主さんといっしょにいれる時間を作ってあげることです。でも、これも癌を治すのと同じくらい、やりがいのある治療です。