潜在睾丸

最近なぜか潜在睾丸の腫瘍化した子の手術が続きます。
先日、元気のないという主訴で来院したゴールデンのハンク君。触診で腹部の膨満が認められたため、レントゲンを撮影してみると腹部にかなり大きなしこりが認められました。陰嚢に睾丸が一つしかないこと、そしてレントゲンで腸管が頭側(前側)に押されていることから、腹腔内の潜在睾丸の腫瘍化、あるいは捻転を疑いました。腫瘍では急激に元気の低下を認めることはまれなため、腫瘍化した精巣の捻転の可能性が高いのではないかと飼い主さんにはお話しし、相談の結果、手術を行いました。開腹すると、予想していたとおり、精巣が大人の握り拳2個分ほどに腫大し、捻転のため血液供給がなくなり壊死を起こしていました。また、壊死に伴う炎症で、周囲とかなり癒着していました。癒着を丁寧に超音波メスを使ってはがし、腫大した精巣を摘出しました。
そして、今日手術したシェパードのロン君はもっとひどい状態でした。ロン君が病院に来院したのは元気食欲の低下ではなく、脱毛でした。脱毛している皮膚と全身をよく観察してみると、脱毛している部分の皮膚は色素沈着で黒くなっており、またオスなのに乳頭が大きくなっているのが観察されました。さらに全身の健康診断で陰嚢に精巣が一つしかないことがわかりました。ここで、ぴーんと一つの病気が頭に浮かびました。精巣の腫瘍の中にはエストロジェンという女性ホルモンを分泌する物があり、そのため雌性化といって乳腺がはったり、乳頭が腫大することがあります。また、ホルモン性の脱毛を起こすことがあります。飼い主さんに腹腔内の潜在睾丸が腫瘍化してエストロジェンを分泌し、そのせいで乳頭が大きくなったり、脱毛が起きている可能性がありますと説明し、腹部のレントゲンを撮影させてもらうと・・・・ビンゴ!やはり膀胱の少し前にしこりが写っています。手術の予定を入れていただき、本日手術となりました。ところが手術前に超音波検査を行うと、先日はそれほど腫大していなかった前立腺が非常に大きく腫大し、なかに液体のたまる前立腺嚢胞になっていることがわかりました。精巣の腫瘍はエストロジェンの分泌で雌性化を起こすだけでなく、前立腺肥大を起こすこともあるんです。開腹して拳の1.5倍程度まで腫大した精巣を摘出し、子供の頭くらいに腫大した前立腺膿胞の液体を排液し、手術をおわりました。
潜在睾丸は正常の精巣に比べて9倍腫瘍になりやすいと報告されています。このような子の手術をすると、やっぱり潜在睾丸は早期に手術すべきだと思います。飼い主さんはこんなに大きくなるなんて考えられないかもしれませんが、信じれないほど大きくなることがあるんです。
潜在睾丸は遺伝疾患です。潜在睾丸の動物から子孫をとることはしないでくださいね。
続きをクリックすると、手術の写真が出ます。手術写真の苦手な方は見ないで下さいね。


写真の右に写っている僕が手で持っているのが腫瘍化した精巣で、左に写っているのが腫大した前立腺の一部です。僕の手と比較してもらえれば、その大きさがわかると思います。


写真:
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